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インタビュー第二弾:トロント大学AI研究の世界的権威 アレクサンダー・ロマン教授 IBMカナダ主席研究員 ウクライナのAIとスタートアップ事情 柴田裕史


アレクサンダー・ロマン教授と筆者
アレクサンダー・ロマン教授と筆者

インタビュー記事第二弾は先日KSE(Kyiv School of Economics:キエフ経済大学)で行われ大盛況だったAIそしてマシンラーニング・セミナーの登壇者でもあるトロント大学のAI研究の世界的権威アレクサンダー・ロマン教授です!IBMカナダの主席研究員でもあり、教育とビジネスの両方の観点を併せ持つ貴重な世界的頭脳です。


柴田(以下S): 教授、今日はキエフ訪問中の貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。ご自身について簡単にご紹介願います。

ロマン氏(以下R):こちらこそ光栄です。私は今カナダのトロントでIBMのワトソン研究所の金融サービス部門に所属し、ヘッジファンドや投資銀行などお金融業界向けの高度な金融モデル、AIシステムなどを設計しています。また私はトロント大学の教授でもあり、数理ファイナンスとデータサイエンス、AIを教えています。ここウクライナではいくつか肩書きをもっており、まずKSEでのMBAI(Master of Business and Artificial Intelligence)の責任者、ウクライナ・カトリック大学で地元学生向けのカナダでのインターシップ・プログラムの責任者、その他もろもろのビジネスおよびボランティアベースのプロジェクトに関わっています。


S: もともとはウクライナ出身とお聞きしましたがカナダへ移住された理由は何でしょうか?

R: ウクライナで学位取得後、カナダへはもともと大学院進学ために引越しました。そしてその後PhDプログラムを開始したのでそれからずっと住んでいます。動機はとてもシンプルで海外で自分を試してみたいというのがまずひとつ。それと広い世界で自分の可能性を探したいというものでした。まずチェコのプラハの大学院へ進学し、経済学を学んだ後、カナダのマクマスター大学でコンピュータ・サイエンスの修士号、PhDを取得するために移住しました。運命のきまぐれかPhDプログラムで学んでいる間IBMで2回インターンシップをする機会に恵まれ、PfD取得後そのままIBMカナダへフルタイムの社員として就職しました。


S: チェコやカナダの教育とウクライナのそれはなにが一番違うと思いますか?

R: 学生の目から見ると一番の違いはモチベーションでしょう。チェコでは学生がなぜその教育を受けているのか、将来どのような職に結びつくのか、その職が面白いのか、高給なのかというところまで見据えた上でよく考えていると思います。ほかの国とウクライナの間にある唯一の違いは、ウクライナでは学生がそれら卒業後の機会を掴むことがより難しいということです。私がウクライナで成し遂げようとしていることは、ウクライナの学生たちに熱意を持ってある分野を学べば、より興味のある高給でビジネストリップもでき、国際的な環境で働ける職に就け、より充実したキャリア、人生を手に入れることができるということを理解してもらうことです。大学の教育の質という意味では、たとえばカナダではほぼどの大学でも高度な教育を受けることが可能です。翻ってウクライナでは欧米水準にひけをとらない非常に質のいいKSEやウクライナ・カトリック大学などの大学もありますが、他の多くの大学はその水準に達していない場合が多いです。規制や教育の質を上げるエコシステムを構築できていないケースが数多くあります。しかし多くのウクライナの大学は今他の国々の教育システムを学び急速に改善しつつあります。我々はKSEでMBAIコースをAI、データ解析などを通じてビジネスを学ぶプログラムをデザインしており世界的水準の教育を受けられます。


S: 教授の専門はAIですが、カナダではビジネス、日常生活にどのようにAIが活用されているのですか?事例をお聞かせください。

R: 過去5~10年にわたりAI、マシンラーニング、データサイエンス、データ解析というバズワードを我々は日常的に耳にしてきました。これは近年のマシンラーニングの成功に起因するものです。特にディープラーニング、エンフォースメント・ラーニング、これらのアルゴリズムは過去5~10年においてより実用的になりました。これらのアルゴリズムが過去少なくとも20年の間よく知られてきたの理由として、以前に比べデータ収集が安く容易にできるようになったこと、自動的にセンサーなどから大規模なデータセットを集められるようになったことが挙げられます。より安く収集でき、保存もできるようになりました。二つ目に以前はマシンラーニングに要するアルゴリズムを実装するコンピュータの処理能力が限られており、実用的でありませんでした。モンテカルロ・シュミレーションなどグラフ・ネットワーク・モデルなど伝統的なアルゴリズムに関しては過去50年もの間使われ続けていますが、同様の革新的なモデルというのはなかなか現在でも現れていません。バズるのに必要な要素がマシンラーニング以外のもっとポピュラーなデータサイエンス、たとえばAIなど、に必要なのです。ほとんどの人はAIとは人間の意思決定を模倣したプログラムという風に理解します。近年議論になっているユニバーサルAIという、人間を超えた意思決定をするAIも研究が進んでいます。しかしこの傾向は今後10~20年は続くことでしょう。つまりAIは局所的な問題を解決するだけのために使われ、アルゴリズムがすべての問題を一気に解決することはできないでしょう。


S: ウクライナのIT業界の強みは何だとお考えですか?今後5~10年の展望をお聞かせください。

R: 先ほどの話と関連しますが現在ではすべての国がアルゴリズムによる意思決定について研究しており、この分野で先を行っている米国、中国、日本(筆者注:日本は進んでいるとはいい難い・・・)、カナダ、西欧の国のいくつかなど世界中で研究が進んでいます。違いといえば個人、企業、政府用の研究開発に割り当てられる人材の数の違いだけです。ウクライナのIT業界はとても面白い現象と言えます。もともとはソ連崩壊後の90年代に外国企業向けのIT人材のITアウトソーシング事業から始まり、現在でもこの傾向が続いています。過去5年間に業界規模は飛躍的に拡大しましたがいくつか理由が考えられます。世界的にウクライナのIT業界の競争力が高まったこと、安価な労働力、外国企業の信頼を勝ち得たこと、などがあります。その他のポジティブ要素としてウクライナ発のプロダクトカンパニー(ソフトウェア製品企業)、アウトソーシングだけでなくAI関連のコンサルティングを行ったり、AIなどのサービスのアウトソースを行う企業などが増えつつあり、高度な知識と高収益を両立できる会社が多くなっていることがあります。よってウクライナIT業界はますます発展し、企業は大学と連携して世界レベルの教育プログラムを構築でき、高度人材の定着のため更に巨額な投資を行うことと思われます。ウクライナ初のスタートアップの成功例は既にいくつか存在しています。有名なところではGrammarly、Amazonに買収されたRing(ウクライナAI業界の巨人)、韓国のSamsung、アメリカのAI企業のDataRobot(AIアルゴリズムのオートメーションに特化)などの多くの世界的企業がR&D開発拠点をウクライナに置いています。ウクライナのIT企業に今最も必要とされていることは世界市場でのマーケティング力の向上、認知度向上、ブランド力の構築でしょう。ウクライナ企業は今まさに世界市場での機会を活用し、どのように国内のIT業界を盛り上げ、AIのエコシステムを構築できるかの議論を国内外の関係者としているところです。AI業界はIT業界とは別という意見もありますが企業と協力し教育エコシステムを作るというのが我々の目的のひとつでもあります。カナダ政府や他国の政府の協力も得てウクライナでのAI、データサイエンス部分のエコシステムの構築を進めています。


S: 今お住まいのカナダ、トロントではIT関係のウクライナ人が多く住んでいますか?コミュニティは大きくなっていると感じますか?

R: 質問を二つに分けましょう。カナダのウクライナ人コミュニティについて、それとIT関連のコミュニティについてです。歴史的にカナダにはウクライナ人移民が多く、過去には4~5度の移民ブームがありました。古くは130年前の19世紀末に遡り、当時オーストリア・ハンガリー帝国の一部だったウクライナ西部から数多くの農業移民が無料の農地を支給されカナダへと移民しました。200人ものウクライナ人が第一次世界大戦前にカナダへ移住し、結果的に現在では120万人ものカナダ人がウクライナ系とされ、今でもウクライナ的な伝統、コミュニティの結束、ウクライナに関するカナダ政府への外交的ロビー活動などとても活発です。そしてもちろんそのウクライナ人の中に更にITのコミュニティが存在し、ウクライナ人経営者の経営する企業、カナダの大企業でマネジメントに関わるウクライナ人経営層なども多く存在します。カナダ版ウォルマート(米系小売店)のCEOとして知られるユージーン・ロマン氏もウクライナ系移民として有名です。彼のおかげでカナダの数多くのITプロジェクトをウクライナのIT企業へと発注しています。お隣の米国と比べるとカナダは市場としては小さいですが開発拠点としては割安で米国でビジネスを展開する前段階としては最適の地です。つまりカナダで開発し、シリコンバレーで売るといったモデルです。カナダとウクライナはビジネスパートナー探しで完全に連携しており、ITはカナダでも主要産業のひとつです。カナダ最大のIT企業が私の勤務するIBMカナダです。IT分野では新たなチャンスにあふれており今後世界的に連携の和が広がっていくことを望んでいます。





S: 今教授が教えているトロント大学に日本人学生はいますか?

R:  今のクラスには世界中から生徒が集まっており、日本のみならず韓国、中国、インドなどから学生が集まっています。カナダは多国籍の学生の留学先として知られており、50万人もの留学生がカナダで学んでいます。カナダの大学は世界的に高く認知されており、その中でもトロント大学はカナダでNo.1と評価されており、世界大学ランキングでもTOP20に入っています。最近私の担当の応用データサイエンス学科にてデータ解析に特化した修士コースを開講し、3年前よりIntroduction to Data Science(データサイエンス入門)やデータ解析を教えており、学生に大変好評です。去年は私のクラスに150人の学生が集まりました。学生は卒業後、インターンシップなどの機会を得ており、とても素晴らしい結果を得ました。留学生のうち何人かは母国へ帰って就職したり、これらの知識を使って私の教えた学生が世界的に勝負できるのを見るのはとてもうれしいことです。


S: 日本人学生の印象は何かありますか?

R: 私の印象では日本人学生は文化的なものかもしれませんがとても勤勉です。あと競争が激しいということです。私のことを「教授、教授」と常に敬って接していたのが非常に印象的でした。日本では大学教授というのはそういう扱いをされるのでしょうね(笑)。これはビジネス上でとてもプラスだと思います。日本人の勤勉さ、プロフェッショナルであること、は誇っていい文化だと思います。


S: 日本関連のプロジェクトに関わったことは?

R: IBMで日本関連の金融市場分析プロジェクトに関わりました。日本にはまだ行ったことはありませんがぜひ行きたい国のひとつです。これら多くのプロジェクトは遠隔プロジェクトだったので日本に行く機会には恵まれませんでした。日本企業と仕事をしたのはとてもポジティブな経験でした。日本市場は(AIでは)世界でも有数の急成長を遂げている市場です。その意味で日本企業ともっと仕事を一緒にしたいと思っています。


S: 日本企業がウクライナIT企業と仕事をする上で何が一番の困難になるとお考えですか?

R: 信頼関係を構築することでしょうね。それが何より重要です。ウクライナでは残念ながら他の国に比べ信頼の置けるパートナー探しのためにより多くの時間を要します。しかし一度作った信頼関係は強固で長続きすると思います。近年では多くのウクライナIT企業が国際市場で信頼を勝ち得ており、これは非常にいい傾向です。出来たばかりの小さな企業だと大きなプロジェクトを任せる前に、PoC(Proof of Concept)などからスタートして慎重に関係を構築する必要があります。ウクライナにはその他にも東部地域の紛争、不透明な法体系、知的財産権などの問題もありますが、これらはゆっくりとですが改善しつつあります。私の意見ではウクライナの諸問題は解決されつつあり、IT業界は成長し続けています。


S: 最後の質問ですが次の10年でもっとも成長するであろうITのセクターは何だとお考えですか?学生に薦める分野は何ですか?

R: ハード、ソフト両面でさまざまな発展が考えられます。しかし私はAI,データサイエンスが専門なので言いますがこの分野は今も今後も急成長すると考えられます。アルゴリズムに関しては昔から変わっていませんが、データへのアクセスが容易になったことでさらなる成長を遂げることでしょう。意思決定のプロセスは劇的に変わることでしょう。他のエリアとしてはクラウドですね。価格が安価になっているということが大きいです。自社のインフラを抱えるよりもクラウドでさまざまなソフトウェアのサービス、数理処理が出来ます。IoTも有望な成長分野です。スマートホーム、スマートウォッチなどすべてのモノがネットにつながる時代が来つつあります。すべての家庭に何十ものネット接続デバイスが設置されるこの傾向は今後も続きます。エネルギーの節約や生産性の向上などさまざまな効果が期待されます。ハードウェア分野ではニューロコンピューティング、つまり人間の脳をシミュレートできるコンピュータチップの登場があります。IBMでは特にこの分野に力を入れ研究を続けており、さらなる発展が見込まれます。ハードウェア業界の競争は激しさを増しており、既にコモディティ化しているという意見も聞かれます。サーバーやラップトップ、デスクトップPC、スマートフォンの分野では既にそうでしょう。しかしIoT向けの専用マイクロチップやプロセッサーだけに絞るとまだまだコモディティではありません。これらの4つのエリアが今後伸びていくことでしょう。


S: ありがとうございました!

R: Дуже дякую(ドゥージェ・ジャークユ!:ありがとうございます)




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