エストニア発、数々の伝説的なユニコーン企業を生み出してきたLIFT99がエストニア外に初めてキエフハブをオープンしたのが去る4月。オープニングイベントにはファウンダーのラグナー氏や出資者でもある孫泰蔵氏もシンガポールより駆けつけ盛大なイベントになりました。
今日はそのLIFT99のコミュニティマネージャー、ミキータ氏に突撃インタビューしてみました!
柴田(以下S) : ミキータさんとLIFT99についてお聞かせください。
ミキータ氏(以下M) : 私はウクライナのハルキウで生まれ、大学進学に伴いエストニアに移住しました。エストニアのLIFT99はとても大きく、エストニアでスタートアップにかかわりたいならネットワークを作ったり、メンターやファウンダーと知り合ったりする最適な場所です。ひょんなことでLIFT99の働く機会を受け、それ以来働いています。
S: コミュニティ・マネージャーですね。仕事内容は?人をつなぐ仕事ですか?
M: そうです。私たちの使命はファウンダー達にすべてを還元することです。なぜならファウンダーこそがすべての原点であり、変人であることを要求され、もちろんお金も必要です。LIFT99のファウンダーのラグナーもそれを理解しています。エストニアではVeriffをはじめとするたくさんのスタートアップのサクセスストリーがあります。Veriffは1年で8人から140人へ急激に成長し、700万ドルの資金を調達しました。今我々がキエフでやっているのはそれをそのままこちらへコピペすることです。キエフにはたくさんの勤勉で優秀な頭脳が集まっており彼らのスタートアップを支援することが我々の使命なのです。世界中からさまざまな人々が集まり、友達同士のように相互扶助のコミュニティをつくり、キッチンなどでカジュアルに知り合い情報交換などができる場を目指しています。
S: エストニア外の初LIFT99ハブとして何故キエフが選ばれたと思いますか?
M: いくつか理由があると思っています。まずウクライナは人材が豊富だということです。20万人の技術者がおり、スタートアップにとって高成長の可能性を秘めています。アメリカ人がよく驚くのはシリコンバレーの多くのスタートアップ企業がウクライナ人創業者によって設立されたという事実です。多くのスタートアップがウクライナに開発拠点を有している関係で創業者ラグナー氏はウクライナを頻繁に訪れていて知り合いも多かったのでキエフハブを設立することになったと思います。
S: ウクライナIT業界の強みと今後5~10年の展望をお聞かせください。
M: ウクライナのIT業界の主要産業といえばアウトソーシングです。しかし5年後には劇的な変化が訪れているでしょう。経験のあるウクライナ人エンジニアほど指示されたことをただこなすことに飽き飽きしています。彼らの多くはアメリカ、アジア、西欧の大企業と仕事をしておりそれらの経験を生かし、自分のプロダクトを開発したいという欲求が強まっています。LIFT99が彼らの助けになればと思います。
S: 外国企業がウクライナでビジネスをするリスクはなんですか?どうしたらそのようなリスクを回避できるでしょうか?
M: いくつかありますがどれも回避できることばかりなので心配しないでください。まずメンタリティの問題です。ただ指示されたことをやる、という態度の技術者がまだまだ多くいます。次に地政学的リスクです。次の半年が勝負だと思っています。新大統領への権力移譲がうまくいけば次の5年は安泰です。前大統領は民主的な選挙の結果を受け入れるようなのでもし何もなく平穏に行けば大丈夫でしょう。主にこの2つだと思います。弱い通貨、信頼の置けないパートナーなどその他のすべてのリスクはこれらに付随的なものです。
S: エストニアに5年も住まれたそうですが、エストニアの起業家とウクライナのそれの一番の違いはなんですか?
M: エストニアは約30年前のソ連崩壊後早くから資本主義へ転換し、実績と経験があります。ウクライナはまだソ連的なメンタリティが残っており、誰が誰の上司とかを気にしたり、上司がその権力を振りかざすような場面がまだまだよく見られます。幸いなことにIT業界は例外的にそのようなことは少ないです。エストニアにはSkypeなどの成功例があり、小さな国家でも世界的な企業を排出できるというコンセンサスがエストニア人の中に広く浸透しています。ウクライナにはまだ確固としたロールモデルがありません。ウクライナ人にとって会社を設立して売却してExitすることが最終ゴールになってしまっています。ウクライナ発のGrammarlyやPreplyのような成功例がもっと出てくることを願っています。エストニアでは政府もスタートアップ支援に力を入れていますがウクライナもそうなることを願っています。
S: ウクライナとその他のオフショア開発拠点(中国やベトナムなど)の違いはなんでしょうか?
M: ウクライナでは税制優遇があり、技術者の払う所得税が5%に抑えられています。たとえばエストニアのように40%に引き上げたりすれば状況は劇的に変わるでしょう。ウクライナはこの税制によって非常に優遇されています。今ウクライナは地政学的にEUに向かいつつあるので
今後どうなるかは注視が必要です。私個人としてはウクライナがスイスのようにロシアともEUとも適度な距離を置く中立国になってほしいですが。多数のウクライナ人も同じ意見だと思います。
S: 日本人の投資家や起業家が毎週のようにエストニアを訪れていると聞きます。日本とのプロジェクトや日本企業との関わりがあればその経験、印象を教えてください。
M: 残念ながら日本企業とのプロジェクトに関わったことはないのですが、大学のとき日本人のクラスメートがいましたし毎週何組も日本から視察ツアーをタリンで見ていました。日本がとてもエストニアに注目していることは本当に驚きでした。私の経験から言うと日本人はとても思慮深くまじめで仕事において信頼のおけるパートナーというイメージです。申し訳ないのですがそれ以外はあまり日本人のことについてよく知らないのでそれがすべてです。
S: ウクライナにも毎週日本から視察ツアーが来るなど、同じことが起こると思いますか?
M: ぜひ見てみたいですね(笑)。エストニアでは政府システムが先端的なのでそれを視察に来ている場合が多いです。2011年よりエストニア政府はペーパーレスを導入しており、選挙もすべてオンラインでできるようになっています。でもウクライナでは・・例を挙げるとすればウクライナには国民すべてにIDカードが配布されていますが、カードリーダーの機械が整備されていなかったためパスポートを申請する際にA4サイズの用紙に個人情報がプリントアウトされた紙を持っている必要があります。なぜ?と言いたくなりますよね。そう考えるとウクライナはまだ道のりは長いと感じます。次に日本企業がウクライナのもっと伝統的な産業、たとえば農業の機械化などに進出してほしいと思っています。日本もそうですよね?LIFT99だけでなく政府が協力してくれることを願っています。でも未来はわかりませんね。
S: 日本企業がウクライナへ進出する難しさはどんなものがありますか?
M: さきほど2つ述べましたが、日本はどうなのかわからないのですが、私はエストニアで2つ企業を立ち上げた経験から言うとエストニアはとても法人設立が容易です。オンラインで登録後5時間後には銀行で法人口座を開設できますが、ここウクライナでは少々やっかいです。たとえばLIFT99をキエフで立ち上げようとしたとき我々が気づいたのは法務、税理関係のサービスの費用がエストニアよりも高価ということでした。とても煩雑なプロセスが必要だからです。エストニアでは印鑑もなくオンライン署名で全て完結できます。ウクライナでは何かを買いたいときそれがどんなに小さなものでも請求書、領収書、受領書などさまざまな書類が必要です。とてもスピードが遅いと感じます。
S: 日本でもそうですが・・・。
M: 共通点が多いですね(笑)
S: エストニアの先進的なシステムにスポイルされましたね。その点では他のどの国よりも進んでいるので。
M: そうですね。あと日本企業がビジネスをする点で障害となる点といえば言語ですね。残念ながらウクライナでは日本語を話す人間は少なく、エストニアに比べれば英語を話せる人材も少ないのが現実です。日本から来た人はこの点で多少困惑することでしょう。こちらで信頼できるパートナーを探すのがとても重要です。
S: 次の10年で一番需要の増大する重要なITの分野は何になると思いますか?一般論として。
M: Googleなどで検索すれば一般的な回答はわかるかもしれませんが、私個人としてはAI、AR、折りたたみ式スマホ、フィンテック、それに仮想通貨ではないでしょうがブロックチェーン技術などが今後発展していくかと思っています。私が一番期待しているのはBoston Dynamicsなどのロボットを製品として売り出してほしいです。ロボットを自由にプログラムできるようになれば素晴らしいですね。今後4本足、8本足のロボットが動き回るのを見てみたいですね。
S: 休みの日は何をしますか?ストレス解消法は?
M: 答えを私も知りたいですね(笑)。いくつか方法があってひとつはただ一日ボーっとして横になってTVを見ることです。もしそれでもだめなら誰かと深く話し込んでみます。散歩もいいですね。
S: ウクライナにきたら是非とも見てほしいところはありますか?
M: まずキエフですね。中心にありますし便利です。情報にもあふれています。2回目にきたときには私の出身地、ハルキウやオデッサ、カルパチア山脈なども訪れてみてください。カルパチアはとてもいいところです。
S: ありがとうございました!
Youtubeで全て動画をアップロードしています!!
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